因果関係の中断・断絶

管制官有罪確定 航空事故防止への重い教訓(10月30日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20101029-OYT1T01184.htm?from=y10
航空管制官の明らかなミスで多数の重軽傷者が出た以上、刑事責任を負うのはやむを得ない。
>複数の要因が絡んだ航空事故で、特定の個人だけを処罰することの適否が問われた裁判でもある。
最高裁は、実務訓練中の管制官が便名を取り違えて降下の指示を出し、指導役の管制官も誤りに気づかなかった「過失の競合」で事故は起きたと結論づけた。
>ただ、最高裁も決定で「責任のすべてを被告に負わせるのは相当ではない」と指摘している。4人の裁判官の多数意見に対し、1人の裁判官は無罪意見を述べた。1審判決も無罪だった。
>検察が主張したように「史上最悪の空中衝突事故になる恐れ」があった重大事故である。さらに負傷者の半数以上の57人もが被害届を出して処罰を求めたことも、有罪につながった要因だろう。
>今回の裁判に関連し、警察・検察が捜査に乗り出し、関係者が刑事訴追される現行制度では事故調査への協力が得られず、真相解明と再発防止の支障となるという意見が高まっている。
>しかし、事故調査を担う国土交通省運輸安全委員会は同種の事故を防ぐため、可能性や推定原因を含め幅広く調査する。これに対し、だれが事故を起こしたかに着目するのが刑事捜査だ。
>両者が独立して事故に対処するから重層的、複眼的な真相の解明も期待できる。関係者が双方に協力し、調査も捜査も円滑に行われることで、乗客が背筋を凍らせるような事態を防いでほしい。
>(2010年10月30日02時12分 読売新聞)

最高裁判例 平成20(あ)920 業務上過失傷害被告事件 平成22年10月26日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 原審東京高裁
(PDF)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101029111711.pdf
>裁判官櫻井龍子の反対意見は,次のとおりである。
>これらのことを考え合わせると,上記機長の判断は本来提供されるべき情報が提供されていなかった結果生じた客観的には誤った判断であって,上昇RAに反した907便の降下継続は,法的な意味での因果関係の有無を検討する上では,異常な介在事情と評価するのが相当であり,本件降下指示と本件ニアミスとの因果関係は認められないというべきである。

■因果関係の中断・断絶ノート
出典:ハスカップノート(大学生時代)
>「因果関係の経路や過程において第三者の行為や被害者の行為が介在しても,また,単なる自然的事実が介入しても,故意行為の介在や予見不可能な異常事態の介在でない限り,因果関係は認められる。第三者の過失行為が介在したなら,それは過失の競合であって因果関係の中断や断絶の問題となりえない(通説・判例)。」
>○第三者の過失介在(大判T12.5.26〜鉄道船舶事故で「過失の競合」多数
>○被害者の過失介在(大判T12.7.14〜「不適切な自己治療」で多数
>○自然的事実の介在(大判S8.7.11〜「因果経路の錯誤」で多数
>×第三者の故意介在(最判S42.10.24〜(不起訴が多数)
>×予見不能異常事態(判例調査中……

 管制官なら,TCASの作動は認識予見しているでしょうし,誤った管制指示でもパイロットは愚直に官制指示(RA)に従うもの(「管制官の声は神(大臣)の声」)と予見認識しているので,今回の最高裁判例の少数意見は無理が有り過ぎ(証拠・事実・法解釈の全部で)だと思います。*1
 むしろ,行政裁量の適切な行使(RAよりTCAS優先を厳命するレギュレーション)や立法で解決すべき問題だと思います。そして実際にそうなりました(上記のレギュレーションが採用された)。司法は政策的判断に踏み込むのは無用な政策論争に巻き込まれ司法の行政介入と批判されて司法権の独立を損なう危険があるからです。むしろ,愚直に法令を適用したらこうなると問題点を指摘した判決を下し*2,行政や立法に警告を発するのがいいと思います。<(_ _)>。*3

*1:学者先生の同旨意見 http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2010/10/arret-e243.html

*2:ただし,刑事事件では情状で問題点を酌量して刑を減軽し,民事責任では損害賠償額を素因で減額するのが相当でしょう

*3:学者先生も立法政策的判断は裁判所に荷が重く,検察庁が起訴段階で判断するのが相当との意見です。 http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2010/10/arret-e243.html