八百屋で魚は……

<医療事故>当直医に専門性要求は酷 福岡高裁 毎日新聞 11月26日(金)23時54分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101126-00000106-mai-soci
>胸痛を訴えた男性が05年、大分県宇佐市の病院で当直医の診断を受けた後に急死した医療事故を巡り、遺族が病院に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が26日、福岡高裁であった。広田民生裁判長は「当直医は内科医で、急性心筋梗塞(こうそく)の診断や治療経験がなく、循環器の専門医と同等の判断を要求することは酷」と指摘。病院側の過失を認めて遺族に約5100万円の賠償を命じた1審・大分地裁中津支部判決を取り消し、遺族の請求を棄却した。

 門外漢から見ても,医学や医療は高度に専門化され内容も日進月歩だと思います。専門が違えば同じ医師のライセンス制度でいいのかと思うくらい。そのため学会認定医制度があるわけです。
 亡父の末期は,内科,心臓外科,泌尿器科,脳神経内科,消化器科,呼吸器科……の諸先生がチーム医療を組んで懸命に治療にあたってくれました。それくらい病状や症例のスーパーマーケットだったわけですが,どの先生も専門外のことは専門医の先生の処置に任せつつ横から熱心に勉強されてました。当直の急患に備えてだそうです。*1
 門前の小僧として仄聞していて判ったのは,「同じ法学部教授といっても法学よろずに精通していないのと同じ。刑法専攻の八百屋に会社法のサカナを買い求める愚を犯してはいけない。」ということでした。
 まさに「法は不能を強いらず( Lex non cogit ad impossibilia)」*2という法諺のとおりの判決だと思います。一審である原審裁判官は高裁判決に平仄を合わせて「俺は医療過誤の専門家の裁判官じゃねえーよ。」と言ってるかもしれないですけど……(。_・☆\ ベキバキビシベキ*3
 やおよろずの法的紛争を,たとえ高度に専門的な内容であっても,全て適正に審判する過酷な職務を自覚しましょう。そんなときのために,裁判官には当事者に主張立証を促して釈明する訴訟指揮権(民事訴訟法149条等)*4が与えられているのですから。

*1:法医の先生が「医者も弁護士も現場に出てからの方が勉強することが多い」とのこと

*2:「nemo potest ad impossibile obligari.」もありますが,こちらは直訳すると「何人も、不可能なことに義務付けられることはできない。」です

*3:もちろん裁判官には専門制度はありません。組織制度として知財高裁なら東京にありますけど

*4:提出された主張,争点の整理,準備手続,証拠調べそして判決に至るための釈明権が随時裁判所に認められている