理性と情緒

イレッサ副作用:次女なくした男性 東京高裁判決に涙
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111116k0000m040101000c.html
>800人以上の副作用死が報告されている肺がん治療薬イレッサを巡る企業、国の対応が問われた訴訟で15日、東京高裁は両者を免責した。「不当判決」。東京・霞が関の裁判所前で掲げられた紙を見ながら、愛娘を亡くした原告の男性は涙を流した。【野口由紀】
http://mainichi.jp/select/jiken/news/images/20111116k0000m040107000p_size5.jpg

 情緒的にはインパクトある記事と写真です。副作用で亡くなられた方とご遺族に人道的見地から哀悼の意を表します。m(_ _)m
 ですが,批判を覚悟で言えば,過失は客観的注意義務違反*1が基本です*2。コーション表示が医薬品添付文書に記載してあるなら,治療投薬で個々の医師の判断裁量と注意であとは十分ではないでしょうか(注意義務・危険の適正分配)。患者さんには個体差があり,副作用の発生頻度は統計的に算出されても,個々的には病状の内容程度や個人的体質の内容程度によってケースバイケースのはずですし,投薬は常に未知への実験という許された危険の側面が否定できません。危険な道路では一定の確率で死亡事故が発生しますが,全ての危険な道路路肩に「危険!死亡事故多発」と標識が乱立していないのと等価です。
 マスコミの報道でも,日本人読者のメンタリティ受けをするイモーショナルな記事で始めるよりも,冷静に統計的確率と受容程度(受忍限度)とそのための適正妥当な施策(政策)の限界を報道して欲しかったです。
 米国は,そこはドライですよ。メーカーが危険表示をしなかったとクラスアクション(集団訴訟)を起こせば,相手が大企業なら民事陪審は多額の賠償を認めやすいと傷害弁護士*3の冷徹な計算合理性がはたらき多額の報酬も得ています。
 ために,電子レンジには「警告!衣類や小動物は乾燥できない。衣類の火災や小動物の体液沸騰死の危険あり」,車のドアミラーには「注意!実際のサイズより小さく遠くに見える」などとコーション表示が過剰にプリントされています。日本の通販TV番組にも「使用者の体験で実際の効能は個人差があります。」とほぼ全てキャンプションがシツコク出ますよね。これは消費者保護を考えてではなく,企業の免責広告が意図する機能です。
 全ての医薬品添付文書に,赤字ゴシック体で

厚労省は,全ての医薬品には副作用で死亡する危険性が常にあると警告している。医薬品を施用する患者は,この副作用の危険性を覚悟の上で,医師又は薬剤師から十分納得できる説明を受けてから,患者の自己責任で使用すること。(厚生労働大臣)


と表示する日が来ないことを願います。m(_"_)m

*1:当該法益関与の通常人(自動車運転なら自動車運転手,飛行機操縦ならパイロット,家庭料理失火なら一般家庭人)の能力を客観的判断基準として,四囲の客観的に認識可能な状況を基礎事情として,予見可能性,回避可能性,許された危険,信頼の原則,被害者の同意,危険への接近,複数当事者間の注意義務の適正分配……等を客観的に判断するもの

*2:例外として,これに行為者が特に知り又は特に知り得た事情があれば基礎事情に加算されます

*3:「渉外弁護士」の誤記ではないです。injuryーattorney の直訳で,致死傷被害者の民事代理人を専門とする弁護士で,交通事故や医療過誤労働災害を得意分野とする弁護士の俗称です