良きサマリア人法

 先輩が腐っている。3年生の債権各論の講座では,事務管理を論点とする学年末試験が出たそうだ。債権各論のヤマは「売買賃貸ときどき不法行為又は請負」なんで,完全にフェイントだったらしい。事案を聞くと新司法試験の過去問をモディファイしたものらしい。とれすば緊急事務管理だ。クリスチャンやプロテスタントなら,ご存じ「良きサマリア人法(good Samaritan law)」*1である。
 そもそも,緊急性がなくても,道端で善意の行為を見知らぬ他人にした(施した)者は,善管注意義務(最も本人の利益に適合する方法)に反しない限り,免責される。緊急性があれば軽過失も免責される。

事務管理
第六百九十七条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
 2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
(緊急事務管理
第六百九十八条 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。

 多分,緊急事務管理の重過失免責を指摘して,事案を当てはめて結論に至ればA(優)答案だろう。緊急事務管理の重過失免責を知らない人が,一般人も専門家にもあまりにも多過ぎるからだ。弁護士だって,緊急事務管理の重過失免責を無視した難癖請求に手を貸す者もいるのだ。

>クリニック前の路上で急病人が発生した。クリニックの医師が診察したところ(中略)▼以下加筆▼救急車を手配して、転送のため近所の大学の救急救命センターに電話中、患者は吸気のまま呼吸が停止し呼びかけにも反応がなくなった。(首が腫れた状態で、喉仏の隆起もなく、気管切開が困難な状態であったが、一刻の猶予も許されないまま、)緊急で気管切開を行い、気管切開自体は成功したが、血管を傷つけてしまい、▲以上加筆▲*2出血多量で死亡した。(中略)あれだけ「助けてください」とその医師にとりすがった患者の妻からの弁護士を介しての損害賠償請求の通知であった。
出典:平沼高明著「良きサマリア人法は必要か」週刊医学のあゆみ170号(1994年),953-955頁) 

*1:ルカによる福音書第10章第29〜37節

*2:コメントの指摘で加筆させていただきましたm(_ _)m