故意の客観化

 亡父が集めた判例タイムズ判例時報に掲載された「否認or黙秘・有罪事件」の判決書に目を通すと,客観証拠や客観的事実で故意を慎重に推認しているものがほとんどだ。大部なので割愛するけど,代わりに,米国某ロースクールの刑事事件のテキストブックの「故意の認定」部分の抜き刷りが手元にあるので,これにインスパイアされて米国版判決書モドキ(ただし,陪審排除法廷と仮定する)を起案してみた。

         はんけつしょきあん(hascup.jr's ジャッジたまご)*1
 本件では,(1) ビクティムの遺体には刺し傷が28か所あった,(2) 遺体の傍にはナイフが遺留されており,それからはビクティムのDNAとディフェンダの指紋が検出された,(3) ディフェンダはビクティムが刺されて倒れたすぐ傍にいたことに争いはない,(4) ディフェンダはビクティムが倒れた際に現場から駆け足で立ち去り,少なくとも911番(日本の110番と119番)通報及び止血や人工呼吸や心臓マッサージなどでビクティムの救命措置を講じなかった,(5) ディフェンダは当法廷で「買ったナイフがうれしくて手にとって見てたら,前を歩いていたビクティムが突然ムーンウォークして私に何度も体当たりしてきた」と証言した*2,(6) ビクティムの遺体を解剖した検視官は,当法廷で「28か所の刺し傷のミニマムで18か所が大量出血で致命傷に成り得るので,ビクティムの意思で3回以上もムーンウォークすることは医学的に有り得ない。」と証言した,(7) ディフェンダはビクティムをVとは気が付かなかったと主張するが,アフダビット(宣誓供述書)により証拠能力が認められた前日の911番通報録音のコピーには,要旨「Vがディフェンダの妻とニャンニャンしてたところを帰宅したディフェンダに目撃され,Vはディフェンダにナイフで切り付けられて逃げてきた。」という通報内容が記録されている,という証拠が成立している。
 これらの適法に成立した証拠から,(a) ディフェンダにはビクティムを加害する煽情怨恨的な動機がある,(b) ビクティムが自害に及ぶ可能性は医学的に否定される,(c) 28回少なくとも18回の致命傷を負わせた電凸もとい刺突行為から*3強固な殺意が推認される,(d) 凶器の付着物鑑識結果からディフェンダが刺突行為に及んだと認定される,(e) ビクティムが瀕死の重傷を負ったのを至近距離で認識したはずなのに,ディフェンダは救命措置をとらず現場から駆け足で立ち去っている,(f) 他にビクティムの殺害に及んだ可能性のある推定犯人の存在は認め難い,という事実が認定される。
 これら当法廷が認定した事実を総合すれば,ディフェンダが強固な殺意をもってビクティムを28回死凸もとい刺突したことが合理的に推認される。よって,ディフェンダの行為否認と殺意否認の各抗弁は全て却下される。いじょー。

*1:Clifford Stoll,"CUCKOO'S EGG"(ISBN-10: 0385249462 ISBN-13: 978-0385249461 ) からパクリますたw

*2:米国では被告人が発言する際は証人となって黙秘権の放棄が擬制?されるらしい,州法により異なるらしいが

*3:傍聴人が爆笑したので,裁判官は「オーダー」を3回連呼して木槌を6回ハンマーしたw