過失の立証

 しかも,この4要件を証拠に基づいて捜査訴追側つまり検察官が公判期日で合理的疑念の余地なく立証しなければならない。交通事故なら理解し易い。(a) 車の性能が旧運輸省の厳し過ぎると貿易摩擦で批判された保安基準で定型化されており,(b) 各種研究で運転手の認知能力が人間工学上きわめて安定的に数値で客観化されている上に,(C) 運転手の守る義務や運転操作が道路交通法で細かく規定されているからだ。*1
(1) 予見可能性は,危険の視認可能性という人間工学や前照燈の照射距離等で客観的に認定される。
(2) 予見義務は道路交通法と優先通行権に基づく信頼の原則の各種判例で定型的認定が容易である。
(3) 回避可能性は,制動距離計算とコーナーリング特性の計算でブレーキを踏んでハンドルを切ったら事故が回避できたかという判定が比較的容易になされる。
(4) 回避義務は予見義務とほぼ同じである。
 だが,不定形の医療行為は,そうはいかないが,これも判例の積み重ねで次第に明らかにされてきた。大野病院事件で明らかになったとおり,裁判官の「回避可能であったと検察官が主張するなら,まず,当該症例で被害者が救命できた臨床例を1つでも立証せよ。」ということになる。この法理でいえば,「当該医療事故が予見可能であったというなら,事前の各種検査(たとえば血液検査やMRI読影)で当該症状の発生を予見して手術に及んだ臨床例をせめて手術計画書で示せ。」ということになるだろう。プロバブル,メイビー。

*1:本稿以下は目覚め後のものです o(_ _*)o