データの改ざん・不記載

 伝聞に過ぎないが,某国の事故調査組織の調査官マニュアルには,「事故関連記録の改ざん・消去・不記載不記録があったら集中的に調査せよ。」という項目があるらしい。「人は,やましい落ち度を隠したがる意識・無意識の心理構造を有するからだ。したがって,そこで原因のリードが発見される確率が高いから,調査リソースを集中投下せよ。」というのがその理由であるらしい。*1
 確かに,私が狡猾な故意犯だったら,犯行現場に向かう段階で,GPSプロッタ,携帯電話,カーナビやドライブレコーダの電源をOFFにするだろうし,犯行後にOFFを忘れていたことに気付いたら,ハードディスクやメモリのデジタル記録を消去するだろう。臆病な過失犯であっても,事故後にそれらの記録を消去したり,プリントアウトされてファイルに綴られていたら,偽造したものと差し替えたり改ざんして隠ぺいを図るかもしれない。
 それらは,内外を問わず,調査官や捜査官(リサーチャやインベスティゲータ)は,先刻ご承知のようで,かえって被疑者や潜在的被疑者は墓穴を掘ることになるかも知れない。これでは,わざわざ証拠のありかを教え*2,私が犯人ですと宣言するに等しい。*3
 やましいことがないのなら,このような疑われることをしないで,堂々と調査に協力すればよい。特に客観的証拠の性質を有する帳簿やログは,強力な証拠能力(刑事訴訟法321条323条1号2号)を有するし,人為的な介在が無い又は少ない証拠として証明力が高いのが一般だそうだから。*4

*1:(参考)メアリー・スキアヴォ著(杉谷弘子訳・杉浦一機翻訳監修)「危ない飛行機が今日も飛んでいる(上・下)」草思社(1996年),柳田邦男「事故調査」新潮社(1994年),ニコラス・フェイス著(小路浩史訳)「ブラック・ボックス」原書房(1998年)等

*2:総サイズ数百テラバイトの数ギガファイル数のログの中から,犯行の痕跡をコンソールを使って目視と手作業で調査するのは通常の調査リソースでは事実上不可能に等しいが,保存が義務付けられているファイルの訂正消去に絞った検索なら,簡単なマクロプログラムでコンピュータが自動的に検出するのは容易だという。

*3:パパは私のオイタを尋問する時,私の視線の先を読んでいたそうで,私がドギマギしながらこっそり見ていた先には大抵オイタの痕跡があった(^^ゞポリポリ

*4:藤永幸治/河上和雄/中山善房編『刑事訴訟法 大コンメンタール初版第5−I巻(第2版第7巻)』 「第321条 被告人以外の者の供述書・供述録取書の証拠能力」参照