因果関係と特別事情

JR東の指令室長ら3人不起訴 いなほ脱線転覆事故で山形地検
2010年03月20日11:20
http://yamagata-np.jp/news/201003/20/kj_2010032000330.php
>事故発生の30分前に現場付近の風速計が観測した風は最大12メートルで、25メートル以上の風を観測した場合に減速するなどの運行規制を義務付けたJR東日本の内規に違反していないと判断。当時、暴風雪警報が出ていたのに運行を規制しなかったことについては「事故原因は局所的な突風で、暴風雪ではない」とし、事故との因果関係を否定した。
>さらに、民間気象情報会社から輸送指令室に寄せられる天気図などを精査することで突風を予測できたのに怠ったのでは−との観点でも過失の有無を捜査したが、「気象庁の予報官ですら突風の予測は困難」との結論に達し、3人の過失は認定できないとした。

 鉄道事故ですが,回避可能性の不存在ではなくて,(1)暴風雪警報は予見すべき一般的基礎事情だとしても暴風雪警報と事故とは因果関係がない,(2)及び,突風は予見すべき基礎事情の中の特別事情(特に予見可能であった事情)に該当しないので,予見可能性が証明できないから過失がない,という極めて慎重な判断をしたと思います。
 つまり,予見可能性の判定基準として,

判定データソース(基礎資料)は
(a) 行為の際の具体的事情の下で一般人なら普通に知り得た事情(一般事情)
(b) 同様の事情の下で行為者が特に知り又は知り得た事情(特別事情)
の総和(OR)をベースに,判定基準は
(1) 一般人なら予見することが可能であったか(認識又は予見)
(2) 又は行為者が現に認識又は予見したかどうか
という判定規範(折衷説*1 )で行う

という通説(団藤大塚)実務判例*2に従ったものだと思います。
 わかりやすくいえば,

当時入手可能な気象データというソースの下で,気象予報判定のプロですら予測できない突風で事故が発生したのだから,気象判定のプロでない運行指令は予測予見できるわけがない(困難で酷である)から過失を認定できない

ということだと思います。

*1:団藤「刑法綱要総論(改訂版)」319頁

*2:判例は客観説とされるが,美形の女性検事さんによれば,「今の実務判例は折衷説よ。検察庁も折衷説でやってるわ。」とのこと