業務上過失致死傷

 過失犯の業務性でも,業務上失火罪(刑法117条の2)や業務上過失往来妨害罪(刑法129条2項)や自動車運転過失致死傷罪(刑法第211条2項)と,業務上過失致死傷罪(刑法211条1項前段)とでは,微妙に適用範囲が違うようだ。そこで,業務上過失犯の一般条項である業務上過失致死傷罪から先に勉強した。*1

「業務」とは,各人が社会生活上の地位にもとづいて継続して行う事務である。
……「職業」…「営業」…適法…本務…兼務…主たる業務…従たる業務…娯楽…であっても,反復的・継続的に行うときは,業務…である。
しかし,その業務が性質上人の生命・身体に対する危険を包含するものでなれければならない。
同様に,人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務もこれに含まれる……。
<団藤「刑法綱要各論(改訂版)」421頁>

 業務上過失致傷の適用範囲は広い。道路交通事故,船舶事故,航空事故,労働災害医療過誤,食品中毒事故,etc.と枚挙にいとまがないので,「開かれた構成要件」の典型例だ。しかし,犯罪統計をみると,自動車運転過失致死傷罪の新設前から,そのほとんどが,道路交通事故であり,そのために,犯罪白書は,昔から,道路交通事故を「交通関係業過」とカテゴライズして,それ以外の「特殊業過」と区別して分析してきたようである。*2
 ただ,昭和40年代以降,企業活動に伴う「公害」や高度技術社会に基づく「産業事故」が頻発して問題となり,「構造的過失論」の議論が進み,死傷結果の危険を伴う企業活動の安全確保を無視放置した企業組織の上位者の過失を問う理論が進展して模様である。*3
 しかし,

刑法学者は,開かれた構成要件の無限定拡張という危険性を戦前から意識して,その「業務(者)」の限定解釈に意を用いてきた歴史があった。上記「構造的過失論」も限定解釈された「業務(者)」の枠内であることに注意しないとマスコミ記事レベルの非刑法理論的な答案となってドツボるから注意しないといけない
(某先輩ゼミのチュータ説明)

のだそうだ。そしてそれが

その業務が性質上人の生命・身体に対する危険を包含するものでなければならないことが学説によって指摘され(11),いまでは判例の認めるところとなっている(12)。
(11)宮本・291頁,小野・182頁,滝川・49頁
(12)最二判昭和33年4月18日刑集12巻6号1090頁……。

へとつながるわけである。学者先生が判例を動かしたんだ。すごいな〜。

*1:実は,業務上失火罪や業務上過失往来妨害罪や自動車運転過失致死傷罪は司法試験にでないという噂があるし,「初学者は基本概念である業務上過失致死傷罪から先に勉強しろ」という先輩のアドバイスがあったからです(^^ゞポリポリ

*2:平成19年6月12日午前零時から自動車運転過失致死傷罪が施行されたから,平成18年度以前の犯罪白書を参照

*3:いわゆるチッソ水俣病刑事事件;福岡高判昭和57年9月6日・刑集35−2−85。最近でも福知山線脱線事故で歴代社長が検察審査会の史上2回目の起訴相当2回決議で検察官職務担当弁護士に起訴が義務付けられたことはるかどうかの段階に進んだことは,皆さんの記憶に新しいでしょう。ゴメソ間違い訂正ですm(_ _)m