文書偽造の罪の不作為犯

甲は,目撃体験した事実の流れABCDEに基づき,ACDEという流れの事実を文書に記載したがB事実を書き落として署名押印した。甲が公務員である場合とそうでない場合に分けて,甲の罪責を論ぜよ。また,「改ざん」と「改変」の異同に議論の実益があるか法学的に考察せよ。

>ゲーッ,今日の午前中の刑法各論ゼミの抜き打ち小テストorz。時事問題をスーパークイックリーに出す先生と判ってたけど,抜き打ちテストじゃあ,シミュレーション予習してないよー。ブーブー。*1
 と言っても,私のゼミではない。よその大学に通うメル友が昼休みに送ってきたコピーだ。ホッ(。_・☆\ ベキバキビシベキ
 しかし,これをネタに昼飯時なのに学食で議論が始まった。今日の昼飯仲間は司法試験自主ゼミ仲間だからだ。生真面目な先輩は図書館まで走って往復して,刑法各論の基本書を学食まで持ち込んだ。天ぷらソバが伸びて不味くなるのも厭わずに。
 誰しも,これが狭義の偽造ではなく「虚偽文書の作成」行為に過ぎず,私人なら私文書偽造変造に当たらず不可罰だから論点は公務員による虚偽公文書作成罪に絞られることにすぐ収斂した。と思いきや,「公務員が職務執行と無関係な事実を報告する場合は,私文書偽造の問題になる。大判の判例があるよ。」と4年生の先輩が口を開いた。エッ……そうなの……w(゚o゚)w。ア●ポッドで判例検索した横の人が,「あった。大判T10年9月24日で刑録(大審院刑事判決録)塔載だって」。ガーン,そこまで勉強が進んでない(T_T)。
 その場合分け(公務員が職務執行と無関係な事実を報告する場合という場合分け)は,私文書偽造罪を論じるまで置いといて,ということで行為の『書き落とし』の評価に移った。
 過失や失念なら故意責任の原則で不可罰だ。問題は,「B事実なんて取るに足らんから報告の必要がない。」と判断して故意に書き落とした場合だ。文書への真実詳細報告作成義務が課されていても,取るに足らない枝葉末節は報告の要がないから真実作成義務の範囲外となり,不可罰だろう。
 たとえば,A:教授が偽造罪の授業を開始して法制史を概観した。B:教授が脱線して某コメンテータのタチの悪いジョークを言った。C:偽造の定義を最広義から最狭義まで説明した。D:文書変造と有価証券変造の定義の異同について判例をボロクソした。E:一般用語例と講学上判例上との偽造変造概念の差異を説明した。というのであれば,変人の私でも,講義レポートには,Bを書き落としてACDEと書くだろう。
 また,大学受験やツイッターのように投稿文字制限がキツイ場合は*2,報告の主眼やポイントに力点を置いて,報告の一部を割愛するなら,真実作成義務を有する公務員でも「義務の衝突」で違法性が阻却されるだろう。もちろん,故意がないと主観的要件も満たさないだろう。
 それに,報告する趣旨・目的・内容・相手方によっても,書き落としの許容範囲も異なるはずだ(これは私見で提示しますた(^^ゞポリポリ)。例えば,A:誰が,B:いつ,C:どこで,D:何した,E:どんなふうに。という項目であれば,A:教授が,B:昨日の夜,C:自宅で,D:死んだ,E:夫婦喧嘩で嫁さんから撲殺された,という客観的事実であったとしよう(汗。講義や指導を受けている学生にとってBなんかどうでもいい,いや,AとD以外は重要性が全くない。大事なことは今現在に教授が死んでいれば,この時期だから学年末試験が中止になることしか興味がないからだ。(。_・☆\ ベキバキ これが文科省厚労省であれば,公務(教育)内外と原因が重要だから,BやEを書き落としたら懲戒もんであろう(「そりゃそうだ」と3年生の声あり)。
 すると黙って聞いていた4年生の先輩が,「同様に,事実の因果関係や機序が相手や世間にとって重要かどうかも判断しなくては。」と口を開き,「A:半径を半分にする決定を下した,B:その直後に同様現場の事故発生の報告を受け「マズイな事故原因か」と口走った,C:ATS等で暴走対策を何もとらなかった,D:事故が発生した,という順番ゆえに,E:危険を認識したし少なくとも危険を認識し得た,というのなら,Bを故意に書き落としたり,ACDBEの順番で事実が発生したなんて国土交通省に報告したら虚偽公文書作成罪どころか証拠隠滅罪と犯人隠避罪だよね。」と。
 「いいかな,皆さんお忘れじゃないかなー。どこまで具体的事実を書くか省略していいか,「書きと落とし」という不作為犯の作為義務を論じるなら,作成者に課された作為義務と裁量権の範囲を論じないと,某マスコミのコメンテータのような明後日向いた俗っぽい議論で終わってしまい,合格点に達しないんじゃないかなー。」……ゲゲゲのゲ,刑法のXX准教授先生じゃないの。( ゚Д゚)ポカーン。「いや,背中向けてカレー喰ってたら聞こえてきて,あまりに熱心に議論されているから,つい声をかけちゃったごめんね。」……ココハドコ\(゜ロ\)(/ロ゜)/ワタシハダレ。ヤバっ,2時を回った。この先生の授業が始まる(汗。「割り込んでごめんね。でも熱心に議論する学生さんは応援したいから。じゃ,授業が始まるので,これで。頑張って。」と。(;´Д`A ```
 司法警察職員司法警察員・司法巡査)や検察官(検事・副検事・検察官事務取扱検察事務官)の捜査報告書は,多種多様でどこまで事実を具体的に書くかは,相当な裁量に任されているので一概に作為義務の範囲を特定できないでしょう。行為者が裁量の範囲内だと認識認容して,そこまで書くのは不要と書き落としたら,仮に客観的に作為義務が認められても,公務執行妨害罪の適法性の錯誤に類似するんで,故意を欠くから,刑法上不可罰でしょう。行政処分の懲戒は別として。判例もないから司法試験に出そうもないし……。

*1:このメル友とは海峡を隔てているので1度しか会ったことがないですが,妙に波長が合うので勉強の愚痴を気軽に言い合える大事な人です。お互いの口癖「ブーブー」「ゲゲゲのゲ」とかが相互感染するくらい仲がいいんです(はぁと

*2:終戦後もしばらくまで,公務電信(電報)は文字制限が厳しかったので報告漏れが多かったそうです。