刑法各論の基本書は大谷實(おおやみのる)先生

 項目わけがしっかりしているし判例がギョウサン載っているので,亡父同様,初学者レベルでは大塚仁先生のを使っていました。しかし勉強が進んだので,亡父の遺言に従い,大谷實著「刑法講義各論 新版第3版」に切り替えました。
 各罪質の本質(民法の制度趣旨と等価)は簡潔明快に記述してあるし,(嘱託)殺人で安楽死尊厳死(延命治療拒否)にも,公害・薬害などの胎児性(過失)傷害致死傷についても,いずれも基本から説き起こされ,さらには,スキミング等のハイテク犯罪まで判例付きで解説されており,これをわずか本文約600ページ強というコンパクトさです。
 しかも,一番すごいと思ったのは,論旨が一貫していてブレがほとんどないこと。大塚先生のは失礼ながら加筆するごとに論旨のブレが目につくようになりましたし,M田先生は初版から論旨がブレ捲りで司法試験にはツカエネーで有名でしたし*1,もともと,刑法各論は社会のあらゆる事象である各種多様な犯罪類型を学び研究するもので,どうしても気を抜くと論旨が大なり小なりぶれるものです*2
 それが学生レベル(刑法各論初学者レベル〜旧試験の刑法各論択一突破レベル)で目につかないくらいの完成度なんですよ!お勧めです。<(_ _)>*3

*1:パパリンの遺言でも,「大塚各論で基本を身につけ,その後大谷先生に切り替えて本腰を入れよ,M田(呼び捨てはママ)は時間の無駄だから開くな。」というもの(汗

*2:団藤先生も,定型説では論旨がブレて論理的説明が難しくなると「判例の集積を待つしかいない」等と論理的説明ができないことを正直に基本書に書いておられます

*3:パパリンが絶賛して初版〜新版第2版までそろえていた理由が分かりました。「団藤・我妻の体系的DNAを色濃く受け継いだ秀才だ。おまけに実務の細部まで目が行き届き理屈倒れ学説倒れになっていない現場主義でもある…(以下絶賛が続くので割愛)…。」というくらいベタ褒めです。もっとも大谷先生は団藤・我妻系の東大出身ではないですが,当時の民法は我妻民法・刑法は団藤刑法という時代的背景でしょう。ちなみにパパリンは,若き新進気鋭の刑法学者だったころの大谷実(ママ)著「人格責任論の研究」慶応通信(昭和47年1月)という単行研究論文書を読んで心酔したようです