「離隔」犯と刑訴法の諸問題

 手続法である刑訴法では,公訴時効の起算点(始期,つまりそこから自動的に算出される公訴時効の完成で刑事罰から何時逃散できるか)が問題となります。こっちの方が被告人には切実でしょう。これも著名なチッソ水俣病刑事事件の最判が触れてます。

S63.2.29最判刑集42−2−314
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=51209&hanreiKbn=02
>裁判要旨
>三 刑訴法二五三条一項にいう「犯罪行為」には、刑法各本条所定の結果も含まれる。
>四 業務上過失致死罪の公訴時効は、被害者の受傷から死亡までの間に業務上過失傷害罪の公訴時効期間が経過したか否かにかかわらず、その死亡の時点から進行する。
>五 結果の発生時期を異にする各業務上過失致死傷罪が観念的競合の関係にある場合につき公訴時効完成の有無を判定するに当たつては、その全部を一体として観察すべきであり、最終の結果が生じたときから起算して同罪の公訴時効期間が経過していない以上、その全体について公訴時効は未完成である。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319115927958742.pdf
>全文
>公訴時効の起算点に関する刑訴法二五三条一項にいう「犯罪行為」とは、刑法各本条所定の結果をも含む趣旨と解するのが相当であるから、Aを被害者とする業務上過失致死罪の公訴時効は、当該犯罪の終了時である同人死亡の時点から進行を開始するのであつて、出生時に同人を被害者とする業務上過失傷害罪が成立したか否か、そして、その後同罪の公訴時効期間が経過したか否かは、前記業務上過失致死罪の公訴時効完成の有無を判定するに当たつては、格別の意義を有しないものというべきである。
>前記前提のもとにおいても、観念的競合の関係にある各罪の公訴時効完成の有無を判定するに当たつては、その全部を一体として観察すべきものと解するのが相当であるから(最高裁昭和四〇年(あ)第一三一八号同四一年四月二一日第一小法廷判決・刑集二〇巻四号二七五頁参照)、Aの死亡時から起算して業務上過失致死罪の公訴時効期間が経過していない以上、本件各業務上過失致死傷罪の全体について、その公訴時効はいまだ完成していないものというべきである。

(参考)公訴時効制度の歴史的考察 原田和往
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/6571/1/A05111951-00-054000165.pdf

 亡父のメモ(受験時代日記)には次のような新論点?に対する冗談記述がある。

[三代傷害と業務上過失致死傷の成否]
 薬品や電磁波の中には,胎児の生殖機能のみに障害の作用を及ぼす(DNAを傷つけるらしい)ものが理論上あるようだ。行為者が業務上過失で薬品や電磁機器を作成し,生殖機能のみを害した胎児が生まれて婚姻した後に生まれた子供(母体から三代目)に傷害(生理機能の障害)が生じた場合の罪責と公訴時効の起算点はどうか? 薬品や電磁波機器の開発期間が10ないし30年で差異を生じるか?
 結論:結果発生時は薬品や電磁機器作成行為時から40〜60年以上は経っているはずだから,30代の被疑者が所要の期間に開発製造しても,平均余命の統計上は起訴前ないし最高裁判決までに死亡しているから,被疑者死亡で公訴棄却となるので論じる実益がないか(爆笑)。