(11/19追記)刑事判決言い渡しの効力

タカ派の麻酔科医 2011/11/19 09:34
http://d.hatena.ne.jp/hascup_jr/20111117#c1321662876
>というか、今のご時世、誰が考えても30円の過料とか罰金とか有り得ないわけで、訂正するだけでいいことだと思いますが、ワザワザ裁判開くというのが頭が硬すぎるのではないでしょうか?
>ワザワザ裁判をやり直す必要がある程の書き間違いであるというならば、軽微な過失とも言えないことになります。法律家の方々は、裁判に出ること自体が、一般の市民にとっては精神的なストレスであることを理解できていなさすぎです。民事であれ刑事であれ、裁判での結果は人の人生を左右するものです、医師の決断となんら違いはありません。法律家の方々の仕事は、法に対する市民の信頼を構築し、社会の秩序を安定を左右する大事な仕事です。それが、普通の市民の裁判や法律家の方々への思いであり期待なのです。

というコメントを頂戴しましたので捕捉します。
 コメントに一部書きましたが,判決は当事者の法的地位や生命身体財産に重要な変更を強制的に与えるので,法的安定性なかずく判決の効力が厳しく規定されており,判決の言い渡し途中なら,言い間違いの言い直しや誤記や内容の間違いの訂正は許されますが,言い渡しが終了する(いわゆる閉廷;略式命令だと命令書が被告人に送達される)と判決が外部的に成立し,(民事判決で計算間違いや誤記などの明白な誤りは後に更正決定で更生(訂正)できますが)刑事判決では訂正が一切許されません。

昭和50(あ)2427号,窃盗事件,昭和51年11月04日,最一判,刑集30巻10号1887頁
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=51108&hanreiKbn=02
>判決は、宣告のための公判期日が終了するまでの間は、判決書又はその原稿の朗読を誤つた場合にこれを訂正することも、いつたん宣告した判決の内容を変更してあらためてこれを宣告することも、違法ではなく、言直しがあつたときは、その内容どおりのものとして効力を生ずる。

 なぜ,刑事判決はこんなに頭が固い手続効力を定めているかというと,刑事裁判は,被告人を長期間拘禁したり多額の財産を没収したり罰金を科したり,被告人の命すら奪うものですから,判決内容に誤りがあったと後に軽々に訂正を認めては法的安定を害して不当ですし(無罪を後に死刑に訂正したのが極限史実例),刑事判決は,判決書ができていなくても宣告(言い渡し)によってその内容に対応した一定の効力が定められているからであり(刑訴法342〜346条,なお刑訴規則56条2項は言い渡し後に判決書が作成されることを前提とする記載がある。),公開の法廷において宣告された判決内容を信じた第三者は当然に保護されなければならないからだとされています。
 そもそも国家の根本法である憲法は,厳格適法な適正手続によらなければ刑事処分を受けないという法の支配のガチ規定で,国民の人権を最大限に保障しようとしているので,今回の罰金額単位の誤記による違法判決事態であっても,法律家の頭が固いのではなく,憲法の人権保障原則の負の反射効ですから正式裁判を受忍すべきないのでしょう。ただ,被告人の積極消極の経済的負担(所得損失や弁護費用)は,刑訴法の規定や国家賠償法で損失補てんをすべきだと思います。
 またまたチョンボした簡裁判事への責任追及が来ると思いますが,憲法が求める司法権の独立・裁判官の職権独立と身分保障から,懲戒や減俸降格は許されませんし,単純過誤では弾劾裁判で罷免することもできないでしょう。これも,政治勢力や多数派国民の圧力で裁判が不当に捻じ曲げられるのを防止し,もって司法優位で人権保障を確保する,という司法権の独立からくる負の反射効で感受すべきでしょう。
 もっとも,無能な裁判官は僻地配転とか再任拒否で不利益を受けることが予想されますが。最近は横浜地裁の裁判官(「司法のしゃべり過ぎ」という独自の見解を出版した判事)が再任拒否されています。*1

日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法

第十七条  何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
第三十一条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第七十六条3項 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
第七十八条  裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
第八十条  下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
 2  下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

刑事訴訟法(昭和二十三年七月十日法律第百三十一号)最終改正:平成二三年六月二四日法律第七四号

第三百四十二条 判決は、公判廷において、宣告によりこれを告知する。
第三百四十三条 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。この場合には、あらたに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときに限り、第九十八条の規定を準用する。
第三百四十四条 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第六十条第二項但書及び第八十九条の規定は、これを適用しない。
第三百四十五条 無罪、免訴、刑の免除、刑の執行猶予、公訴棄却(第三百三十八条第四号による場合を除く。)、罰金又は科料の裁判の告知があつたときは、勾留状は、その効力を失う。
第三百四十六条 押収した物について、没収の言渡がないときは、押収を解く言渡があつたものとする。