冷徹重大な利益衡量

“深刻事態シナリオ”公表せず  2月12日19時2分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120212/t10015965831000.html
原発事故を巡って、去年3月末、政府が、原子力委員会の委員長から、「深刻な事態に陥れば、首都圏を含む範囲での住民避難などが必要になる」という内容の文書の提出を受けながら公表を見送り、去年末まで情報公開の対象にしていなかったことが分かりました。
>文書に記された内容を巡って、菅前総理大臣は去年9月、NHKとのインタビューの中で、最悪の事態を想定したシミュレーションを行っていたと明らかにしていますが、当時、「過度の心配を及ぼす可能性がある」などとして、公表は見送られました。
>また、文書は、去年末になって原子力委員会の事務局に保管されているのが偶然見つかるまで公文書として扱われず、情報公開の対象になっていなかったということです。

 リスクス・マネジメントでは,(1)「最悪の事態に備えよ(プリベア・フォア・ザ・ワースト(カタストロフ) )」は当然ですし,(2)緊急事態では悪戯に大規模パニックを起こす情報は厳秘とする(場合によって誠心誠意で嘘をつく)のも当然です*1。重症急患を真っ先に症状安定(固定)させるために瀕死状態でも「病院です,私は医者です,これから治療しますから,もう大丈夫ですよ」と救急外来のドクターが急患を安心させるのに似ています。
 もしもですが,「炉心が爆発すれば原子炉から半径250km以内の人は被爆します。炉心が爆発する可能性は1%未満ですが可能性は否定できません。」と科学的に正確な報道だとしても,こんな情報がマスコミのヘッドラインを至急電(TVならニュース速報や原子炉警報)で,大地震・大津波・原子炉水素爆発で浮足立った東北や首都圏に流したら,どうなっていたでしょう?
 もちろん,「当時は,こういう理由だから公的報告の公文書だが機密指定して公開を厳重に控えた。」と事後に公開(デクラシファイド)すればよかったと思いますが(汗。悪戯に民心を惑わしたりしたら,どこぞのマスコミの情緒的災厄と等価ですけどね。嘘でも民心を安定させないと「至近に迫った速やかなエクソダス」など望みえません。これは米国でのNCBEP(核攻撃事態緊急避難計画)で語り尽くされていることです。
 たとえば,1%未満の確率で数百名が被爆死するのと20〜50%以上の確率でパニック状態圧死する数十名(米国深南部)〜百数十名〜数千名(米国スラム街)とどちらが大事でしょうか? これがリスクス・マネジメントで迫られる冷徹で重要重大な利益衡量です。

*1:日本の「地震警戒宣言」を予測させる「地震判定会招集」の情報は「招集発令」から数時間はマスコミ報道を控えるという取り決めがなされています。それはもちろん「地震判定会招集」がニュース速報で流れたら,警察の雑踏警備非常招集どころか,地震判定会の委員すらパニックによる交通マヒで招集できなくなる恐れを回避するためです。