法政策の根幹は利益衡量

 安全工学ではフェイルセーフ(疑わしきは被疑者の利益)が飛んだと見られるが,民主主義的統治の原理からは妥当な制度の帰結となる。それが検察審査会の起訴相当2回議決による起訴強制制度。

JR西歴代3社長、強制起訴へ 神戸第1検審が起訴議決 2010.3.26 16:36
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100326/crm1003261636020-n1.htm
兵庫県尼崎市で平成17年4月、乗客106人が死亡したJR福知山線脱線事故で、神戸第1検察審査会は26日、業務上過失致死傷罪で遺族から刑事告訴され、嫌疑不十分で不起訴となったJR西日本の■■■■元相談役(74)ら歴代3社長について、起訴すべきだと議決した。
>改正検審法は、市民からくじで選ばれた審査員11人中8人以上が再審査で「起訴すべきだ」と判断した場合、指定弁護士が強制起訴すると規定。神戸第2検察審査会が1月27日に全国初の起訴議決を出した明石歩道橋事故では、指定弁護士3人が元副署長(63)の強制起訴へ向けた準備を進めている。

JR宝塚線事故 歴代3社長強制起訴へ 検察審査会議決 2010年3月26日20時55分
http://www.asahi.com/national/update/0326/OSK201003260096.html
>そのうえで、3人には、現場カーブがJR西管内でも特に危険性が高いとの認識があった▽カーブ付け替え直前に起きたJR函館線脱線事故を精査し、宝塚線の現場カーブに自動列車停止装置(ATS)を整備するよう部下に指示すべき注意義務があった――と指摘。「危険性を認識していなかったとは到底考えられず、最優先にATSを整備すべき義務を怠った」と結論づけた。
>一方、神戸地検は昨年7月、現場カーブ付け替え時(96年12月)にATSの設置を怠ったとして、当時鉄道本部長だった■■前社長だけを起訴し、3人については「安全対策の権限を鉄道本部長に委ね、カーブが危険という認識はなかった」として不起訴処分とした。
>これに対し審査会は、3人は安全対策の基本方針を実行すべき最高責任者だったと強調。「JR西の社長として鉄道本部長を指揮し、社内の総合安全対策委員会の委員長として事故防止業務を総括する立場にあった」「函館線事故は当時の全国紙に掲載されていたが、何の対策も取らなかった」と述べ、組織のトップとして刑事責任は免れないと判断した。

福知山線事故、神戸第1検察審査会の議決要旨
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100326-OYT1T01005.htm

強制起訴に「2つの壁」JR福知山線脱線事故検審議決 2010.3.26 20:21
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100326/crm1003262025021-n1.htm
>だが、検察官に代わり強制起訴にあたる指定弁護士は今後、「証拠」と「時効」という2つの壁に直面することになる。
>今後、指定弁護士は、「起訴」に向け、検察官役を務めていかなければならないが、神戸地検が4年を超える捜査の末にたどりついた「刑事責任を問えない」との結論を覆す作業は容易ではない。
>地検幹部は「3人を起訴するに足る証拠は一切ない」とまで断言している。起訴だけでなくその後の公判維持も見据えれば、膨大な量の捜査記録を精査したうえで、必要な証拠を得るために補充捜査を行わなければなるまい。
>しかも、最後の犠牲者が亡くなった日から5年がたつ4月30日には、業務上過失致死傷罪の公訴時効を迎える。残された期間は1カ月しかない。
>証拠に基づくプロの法解釈と市民感覚との間に、限られた時間でいかにして着地点を見いだすか。“民意による起訴”を体現していく指定弁護士に課せられる責任と負担は、極めて大きいといえるだろう。

 (1) 捜査と法律のプロである(はずの)多数の検事が,4年にわたり捜査を遂げて,おそらく地検幹部検事と高検幹部検事が*1,法律と判例と証拠を吟味精査して,現行法制では,「3人を起訴するに足る証拠は一切ない」と認定して,3人の「刑事責任を問えない」との結論に達したが,それが間違っていても「疑わしきは被疑者の利益」でフェイルセーフ機能が作用する。
 (2) しかし,法の客観的意味内容を探る司法判断(裁判・判決)や準司法判断(訴追裁量・起訴不起訴)は,冷静な専門的合理的判定が求められ,本来はナマの民意(法感情や一般人の多数決)が流入するのを忌避する「司法権の独立」が尊重されるが,司法や準司法の独善暴走を防止するため,民意(民主主義)による牽制が必要との刑事政策判断が民意で興隆した。
 この(1)と(2)の利益衡量の結果が,裁判員裁判制度と検察審査会の起訴強制制度に至ったものであろう。

*1:過去30年間のマスコミ報道の断片を総合すると,検察審査会で起訴相当や不起訴不当の決議がなされると地検は高検と協議しながら,再捜査・再度の考案・再処理(起訴不起訴)をするらしいです